GOTO

小学生時分にBASICで "GOTO" を覚えた筆者は、その後「GOTOは使ってはいけない」と習い、今日まで至っている。曰く、GOTOを使うと "バグの温床になる" から...今でも時たまBASIC(VBA)に触れることがあるが、"GOTO" を使うのは主に

GOTO ErrHandler

と書く時だけである。そして、ErrHandlerで行う処理は大概、次の3行。

MsgBox Err.Description ... エラー内容を表示

Err.Clear ... エラーをクリア

Exit Sub ... 戻る

 

いやいや、Err.Clearとか書くだけでエラーがクリアできるのであれば、どんなに幸せなことであろうか>>GOTO ほにゃらら。

 

一連のGOTOシリーズは需要を先食いするだけであり、また、本来の需要家でないものに市場を荒らされるので有害である、との論がある。筆者は基本的にはこの論に賛成である。また、筆者はハイエクの信奉者なので、原理原則として政府が恣意的に経済に介入することは好ましくないと考えている。何故なら、神ならぬ人の身にあって、全てを見通して正しい政策を立案し、それを正しく実行することなど不可能だと思っているからである(そもそも、何が正しいのかすら分からない)。

 

それでも、GOTOシリーズにはひとつだけ意味があると考えてきたことがある。それは「日本を大資本やチェーン展開による旅館や店舗だけにしてしまわないこと」。既に多くの街が「日本中、どこに行っても同じような店やホテルばかり」と言われて久しい。此度のアフターコロナの焼け野原からの復興は、それに更に拍車をかけるであろうことは想像に難くない。復員による人口増が景気拡大を支え得た戦後の復興とは、基本的状況が違うのである。

 

しかし、今回の決定は最悪である。GOTOをやろうとやるまいと、どちらにせよ重要なのは「政府の恣意的な政策変更が経済を混乱させる」という事実であろう。これでは、GOTOをやらなかった時より更にひどい結末を呼び込むことになる。

 

恐らく、多くの(中小)旅行会社が倒産の憂き目に遭うことになろう。GOTOに関する旅行会社のキャッシュフローを考えてみる(以下は計算を単純化している)。

①お客様に3万円の旅行商品を販売した

②お客様からは2万円を受け取った(1万円の割引)

③ホテルには差額の1万円を立替て、合計3万円支払った

④1万円の立替金は将来国から受け取る予定(<<今ココ)

⑤GOTO中止によりお客様からキャンセルされた

⑥お客様には2万円を返金した

⑦国からホテルにはキャンセル料が支払われる予定

⑧ホテルから2万円が戻ってくる予定

 

曲者は④と⑧である。⑤のお客様キャンセルは今日にも発生するであろう。報道によればキャンセル料は国が負担するとのことなので、お客様負担は実質ゼロ。旅行会社が一旦全額返金をする、ということになろう。さて④と⑧は、一体いつ支払われるのであろうか...?

 

お客様に返金した⑥の時点でこの旅行会社は、何も悪いことをしていないのに3万円の持ち出しである。しかも、無利子・無担保。キャッシュに余裕のある会社であれば④と⑧を待つこともできようが、そもそもこの業界はコロナで痛んでいるのである。そこにこの、何の利益も生まない無駄な支出...

 

これから、いくつかの旅行会社が倒産して、ゆえに返金してもらえなかったGOTOキャンセルユーザが数多発生することであろう。それもこれも「GOTOを始めたから」でもあり「GOTOを突如止めたから」でもある。

 

筆者は"バグ"という言葉が嫌いである。何となれば「バグでした」というセリフは「(自分が)バカでした」と同義であると考えている。コンピュータは言われたことしか実行しないのだから、"バグ"が発生したとしたら、それは自分の命令による以外の理由は無いのであり、"バグ"を起こすような命令を下した自分がバカであったに過ぎないのだ。"バグ"を発生させないためには、あらゆる可能性を事前に想定し、且つコードをシンプルにすることが肝要であろう。そして「"GOTO" はコードを複雑にするから使ってはいけない」と習ったのであった。

 

ハイエク信奉者の筆者としては「あらゆる可能性を事前に想定することなど人間には不可能」と考えているので、「"バグ" は嫌いだが、必ずあるもの」と考えている。それにしても今回のバグは酷過ぎる。というか、可能性を事前に想定することを放棄していたとしか考えられない。「考えても無理」は「考えても仕方ない」を支持はしない。自分の限界を超えて考えることに成長も進歩もあると思うのだが、世の中、そう思っていない人が多いようだと最近気づいた。

 

GOTOは「行く時はラク」だけど「返ってくる時が大変」だと習ったようにも記憶しているが、それは40年経っても変わらない真理であったのだ、と改めて感じさせられた今回の報道であった。