今次ウクライナ紛争の原因の、その90%はウクライナ国民に起因する

先に断っておく。決して善悪を問うつもりはない。ただ、紛争の原因がどこにあるか、それだけをテーマとしている。


で、筆者の結論。原因の90%は「ウクライナ国民」にある。別にプーチン大統領や彼の率いるロシア国家・ロシア軍の肩を持つつもりはない。彼の主張には理があると思う部分は多い-例えば、NATO拡大はロシアの安全保障に重大な影響を与えるとの言には筆者も同意する-が、そのことが直接的な戦闘行為を正当化することはない、と考えている。


ただ、それでも紛争の原因は明らかに「ウクライナ国民」にある、と筆者は考える。90%と書いたのは、100%は言い過ぎだと思ったからで、99%でもいいかもしれない。文章的にあるいは定性的に表現すれば、「ほぼ全ての」原因がウクライナ国民に起因すると筆者は考えている。


理由は2つ。ウクライナは大国に挟まれた小国であることと、ウクライナが民主主義国家であること。


まず、理念や主義思想は於いて、冷静に、地政学的に見てみる。ウクライナは東のロシア、西のEUという大国に挟まれた小国に過ぎないというのが現実である。そして歴史の教えるところによれば、陣営の異なる2大国に挟まれた小国の運命は悲惨であり、その取るべき道は常に限られている。そう、どちらかの陣営に降り、その庇護を求めることである。そしてウクライナは、彼らが望むと望まざるとに関わらず、かつてはロシア陣営にいたのであった。


それが、このところのロシア陣営の凋落ぶりを見たウクライナは、あるいは歴史的にロシアあるいはソビエトへの忌避感を抱き続けていたウクライナは、またあるいは旧西側諸国の繁栄に憧れを抱いたウクライナは、EU陣営への宗旨替えを決意した。その帰結が現政権の発足であり、古くはオレンジ革命に始まり今に至る彼の国の潮流なのであろう。それは彼らの決意であり、筆者はそれを尊重している。しかし……有り体に言えば、やり方がまずかった。


もし宗旨替えをしてEU陣営に入るのであれば、少なくともEU陣営をして「ウクライナを陣営に迎え入れたい」と思わせしめなければならなかろう。しかしウクライナ政府はそれを怠った。本来は水面下で工作を行った上で-EUが水面下でウクライナを迎え入れる準備が整った上で-ロシア陣営に別れを告げるべきであったのだ。しかし、要するに彼らは順番を間違えた。EUがそれを受け容れない前に、高らかに宣言してしまったのである。「ウクライナNATO入りする」と。


ロシアが怒るのは無理も無いが、それ以上にきっと、EUは困惑したことであろう。「この人達は何を言っているのか?」と。それで今回の紛争に至る。きっとEUは困惑していることであろう。「とばっちりだ!」と。で結局EUとしては、口先だけの応援になる。筆者はその態度を醜いとは思うが、同情はしている。今次紛争は、決して彼らの望んだものではなく、また、彼らの招いたものではないのだから。


そういう訳で今次紛争は、小国がそのとるべき道-あるいは手順-を間違えたことが原因であると筆者は考えている。いや率直に言えば「寝返るつもりなら、もっと上手くやれよ」というところである。そして筆者がその原因を「ウクライナ国民」に求める理由の2つ目はまさに、そのような政府を選んだのはウクライナ国民自身であることである。


つまり筆者はウクライナを民主主義国家として認識しており、その決断を尊重しそれに敬意を表しているのである。これが独裁国家でありその決定および責任は独裁者ただ1人に起因し帰結するものであるならば、この紛争は独裁者にその原因があると言えよう。しかしウクライナは民主国家であり、民主的な手続きを経て現政権を選択したのだと理解している。またその手続きおよび過程において、民主的な決定を阻害する要因-平たく言えば選挙監視や選挙妨害-があったとは知らない。従って、今次ウクライナ政府の選択は全て、ウクライナ国民の意思によるものである、と理解しているのだ。議会制・代表制民主主義とは、そういうものであろう。


要するにこういうことである。
ウクライナの現政権は大国に挟まれた小国としての外交運営に失敗したが、
②その政権はウクライナ国民が完全に民主的な手続きを経て選択した正当なる政権であり、
③その政権による失敗の責任は、その政権を選択したウクライナ国民に起因し、
④結果としてウクライナ国民はその責任を負うことになる


筆者が言いたいのは、つまりはそういうことである。だから今次紛争の原因の90%はウクライナ国民にある、と筆者は言うのである。筆者はこの言を、ウクライナ国民と、その民主主義過程を尊重するからこそ挙げている。いやむしろ、これをプーチン大統領の責に帰すことなどは、ウクライナの民主主義に対する侮辱である、とさえ理解している。


あぁ、残りの10%のうちの幾分かは、EUがこれまで示してきたその拡大路線にある、とも筆者は思っていることを付記しておく。現に旧東欧諸国-かつてのロシア陣営-の大半は今やEU加盟国なのである。この拡大路線は2つの国に、それぞれ方向性の異なる誤解を与えた。ロシアには脅威を、そしてウクライナには安全を、それぞれ与えるとの誤解を。尤も、EUにはそこまでの気概はなかったと言うのに……不幸なことに「EU拡大は将来ウクライナも対象とする」と両国は誤解した。


EUなどは所詮ドイツ・フランス連合に過ぎないのである。ドイツとフランスが2度と戦争をしないためのそれは枠組みであり、その見返りとして、独仏両国が経済植民地を拡大することを『合法化』するためのそれは修辞に過ぎない、と筆者は考えている。


さて今次紛争の行方について、今のところはプーチン大統領の言が正しいように筆者には思える。曰く「ウクライナに主権は存在しない」。筆者の趣意はこういうことだ。


つまり、今次紛争を最終的に終わらせるためには、EUNATOを交渉のテーブルにつかせなければならない、ということ。NATO拡大阻止が目的なのであれば、ロシアの交渉相手はウクライナではなくNATOであろう。丁度、北朝鮮の交渉相手が韓国ではなく米国であるのと同様に。当事者たるウクライナにとっては忸怩たるものがあろうが、ロシアから見ればウクライナがいくら中立を謳ったところで意味はない。NATOにそれを誓約させない限りにおいては……


皮肉なことに、プーチン大統領の言は正しいのである。少なくとも小国たるウクライナは、自らの属する陣営を自ら選択する権利は、これを既に失っている。「ウクライナに主権は無い」というプーチン大統領の言に筆者が首肯する所以である。無論ここで、その善悪を問うつもりもなければ意味もない。