ウクライナ-日本政府に期待すること

戦争は、あるいは始めるよりも終わらせることの方が難しいのであろう。振り上げた拳の上手な降ろし方は、例えそれが子供の喧嘩であっても或いは国家間の戦争であったとしても、同じくらいに悩ましい問題である。いや子供の喧嘩の方が、親や先生が-強制的に-仲裁できるだけマシかもしれない。今や米国は、残念ながらその仲裁役としての能力を疑われているのであるから。

 

筆者は無論素人なので詳しい情報を得ている訳では全くない。しかし、プーチン大統領の身になって考えてみれば、筆者であればロシアとクリミア半島が地続きになるまでは、この戦略線から外れることはできないと考える。例え今回の軍事行動は短期的に終える-侵攻地域を実行支配した程度で一旦後退する-としても。

 

また筆者は、この機に日本が西側諸国と協働して経済制裁を行うことには、あまり賛成できない。理由は2つ。ひとつは、過去の経済制裁は結果としての実効力を持たないから。イランも北朝鮮もシリアも……そしてロシアもだ。北風と太陽ではないが、どうやら北風戦略で分厚い衣を脱がすことはできないらしい。尤も、太陽政策が奏功したという話も聞かないが……

 

ふたつめの理由は、あの地域、そしてNATOというフレームワークに直接は関与しない日本だからこそ、あの地域の紛争を仲裁できる可能性がある、と考えること。言い換えれば、喧嘩してる当人同士が仲直りできる条件を、双方に縁がある-あるいは双方とズブズブではない-第三者であれば提示できる余地があること。そして、双方が利を得られる程度の経済的・技術的背景を、日本であれば持っていること。

 

そうやって考えてみたら、『小説家になろう』で筆者が公開している拙作『フレミングの法則』も、あるいはひとつのヒントになり得るのではないだろうか。

 

レミングの法則~踊る赤髪の落ちこぼれ撃墜王

https://ncode.syosetu.com/n6406hf/

 

作中では、バーラタ共和国-その地理的なイメージはインド-とパラティア教国-その地理的なイメージはイラン-の間で始まった戦争は、グレートエイトアイルズ-その地理的なイメージは日本-の仲裁により終戦を迎える。その終戦の条件は当該二国間での相互不可侵条約締結と、グレートエイトアイルズを含む三ヶ国間での経済同盟締結であった。

 

その顰に倣えば(?)、ロシアとウクライナが相互不可侵条約を締結するよう日本が働きかけてやることが望ましい。仮にウクライナが将来NATOに加盟したとしても-そして恐らくそれは、不可避なのだ-、ある一定程度のバッファーにはなるとロシアに期待させる可能性がある。同時に、クリミア半島を除くオデッサからキエフを結ぶラインから東のウクライナ国内には、他国の軍隊の駐留を相互に認めない。このような協定をNATOとロシア、ウクライナ間で締結すれば、ロシアのみならずNATOも、ウクライナ東部をバッファーとして期待することができよう。

 

その上で、日露宇三ヵ国間でウクライナ経済開発に関する協定を締結し、日本もそれに投資するというスキームを作る。今時であれば例えば再生可能エネルギー的なものでもいいかもしれないし、食料プラント的なものでもいいかもしれない。あるいは医薬品とか自動車関連とか? そういう、ロシアも投資している以上攻撃できないような設備、対象をウクライナに作って、ロシアとウクライナ-と日本-の共同権益にしてしまえばよいのではないだろうか? あるいは西側諸国は怒るかもしれないが、まずはウクライナで発電した再生可能エネルギー由来の電力をドイツに廻してやることから始めるとしよう。

 

また、先に「クリミア半島と地続き」と書いたが、その延長線で面白いことを考えた。クリミア半島と対岸のロシア領を結ぶ、黒海トンネルを掘削あるいは鉄道道路併用橋を架橋する事業に、日露宇三ヵ国で投資するというもの……って、もう既にあるんですね。知らなかった……

 

ja.wikipedia.org

 

Wikipediaによれば、道路部分は2018年5月15日、鉄道部分は2019年12月23日に開通したそうな。あぁ、意外と最近、というかクリミア併合以降のことだと知った。まぁ折角なのでもう1本くらい、日露宇友好のために架橋してはどうであろうか。瀬戸内海にだって3本も架かっていることだし。折角だからガス橋も架けよう。その方が権益っぽいし……戦略的にも、別ルートがある方がプーチン大統領も喜ぶことでしょう。

 

いずれにせよ、ロシアに媚びることなく-コレ重要-、しかしロシアには利益があるように思わせて、適当なところで拳を降ろさせる。その上で実利は日本が取る。そんな外交を日本政府には期待したいのであるが、さてどうだろう。

 

あぁ、日本がこういう対応を考えるべき理由は、本当は別にあるのだ。それは、香港であったりチベットであったりウイグルであったりモンゴルであったり……そして無論、台湾、尖閣竹島、北方4島なのである。「力による現状変更を認めない」というロジックを、日本は「安易に」鵜呑みにしてはいけないのだから。

 

念のため……

 

筆者は、日本は武力による領土拡大を目指すべき、等とは露ほども考えていない。ただ「力」の定義が不明瞭である以上、ソフトパワーも「力」と言われかねない、と考えているだけである。例えば「民衆を扇動した」みたいな謂れ様を想像して欲しい。上では「安易に」という表現を使った所以である。